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Warmed essay あったか・えっせい
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あったか・えっせい
2007 あったか・えっせい 入賞作品「一枚の葉書」ベルブードワァ浜松店 宮崎てるみ

 (あーあ・・・またこれの時期かぁ・・・面倒くさいんだよねぇこれ・・・。)
 一日の営業が終わり、レジ閉めをした後、営業部にある自店のメールボックスに入っていた一枚の連絡報を手にした私が、ため息をついて心の中でつぶやいた一言です。

 このモールで毎年行っている独自の活動の一貫で、”中学生・職場体験学習への協力”というものがあります。これは、近くの中学校の生徒が、実際にこのモールの中にあるさまざまなお店で三日間仕事をする事で、仕事の楽しさ、大変さ、重要性を学ぶというものです。
 「断りましょう、去年も断ったんだし。大体、作業や販売で忙しいのに、中学生に一人が丸一日付きっきりなんてやってられないですよ。うちのスタッフの人数だって少ないし、その日一日一日の売上がかかってるんだし。」その用紙を見てスタッフの一人が言いました。
 「だいたい、私達が中学生の頃なんて、幼稚園とか老人ホームとか、そういう所だったよね?なんでショッピングモールでそんな事引き受けちゃうんだろう・・・。」私が言うと、”うんうん”と言わんばかりにスタッフ全員が首を縦に振りました。
 「よし!断っちゃうわ!!」
 正直、とてもほっとしていました。スタッフ皆んなが引き受けなくてもいいんじゃないかと言ってくれた事、面倒くさい仕事をやらなくて済むんだ、という、そんな気持ちでした。
 それから何日か経ったある日、書類のコピーをしようと営業部に行った私に、担当の人が声をかけてきたのです。
 「アンテナさんも中学生職場体験のアンケート、”いいえ”の方に丸つけてますね。やっぱり無理なんでしょうか・・・?他の店舗さんも、なかなか協力していただけなくて・・・ちょっと考えてみてはいただけないでしょうか。」
 「はぁ、じゃあ・・・ちょっと考えさせて下さい。」私ははっきり断れば良かったものの、何故か一瞬ためらって、気がつくとそう言ってしまっていました。おそらくあの時、”面倒くさいから”という理由で、簡単に断ってしまった、申し訳ないという気持ちが私の中にあって、そこに、
 「他の店舗さんもなかなか協力してくれなくて・・・。」と困った表情で言った言葉がチクッと刺さったから、すぐに断る事が出来なかったんだと思います。

 その日の夜、私は自分が中学生の頃の事を思い出していました。協力してくれる職場が無かったら、きっと困っていたにちがいない。それに、働く事がどういう事なのかも分からずに高校生になっていたら?どんな気持ちでアルバイトに臨んでいただろう。もしかしたら今、仕事が続けられている自分は居なかったかもしれない。そんな事をずっと考えていて、次の日、私は営業部へ行き、
 「やっぱりやります。」そう言っていました。
 三日間のスケジュールを決めて他のスタッフに見せた時、皆んなも、
 「いいですね!!」と言ってくれました、私の気まぐれに、嫌な顔一つせずに・・・。
 そして当日、とても緊張した様子の中学生の女の子が二人、お店の中に入ってきました。
 「あの・・・今日・・・ここで、体験学習をする事になっている○○です。宜しくお願いします。」二人はおどおどしながら恥ずかしそうに声を合わせて言いました。
 (わぁ・・・私も中学生の時ってこんな感じだったんだぁ・・・。)
 当たり前かもしれませんが、真っ黒でつやつやした髪、スカートはひざ下、ハイソックス、まゆ毛もまだ太く、もちろん化粧っ気が無くて、でも瞳がとてもキラキラしていたのが印象的でした。
 私は四人兄弟の末っ子で、自分の下に弟も妹も居ないし、近所も皆、大人の人ばかりなので、中学生ぐらいの女の子と話す事も無かったのでとても新鮮で、可愛らしく思えました。
 第一日目はお店の説明、仕事内容の説明、店内の清掃です。私が話す事に、真剣に耳をかたむけ、自分のノートにメモしていたり、何といっても清掃は、汗をかきながら、本当に一生懸命、取り組んでいました。
 「なんか、つくづく考えさせられますね、いつもの自分と比べて・・・。」中学生を見て一人のスタッフが言いました。
 「本当だね。ああいう気持ち、いつの間に失くしたんだろうね。」
 二日目は、お客様と目を合わせて、
 「いらっしゃいませ。」「どうぞ、ご覧下さいませ。」と声を出す事と、おたたみの練習です。恥ずかしがってあまり声は出せなかったものの、おたたみを教えた時、ずっと緊張してこわばっていた二人の顔が、笑顔になったのです。
 「楽しくなってきた?」私が嬉しくなってたずねると、
 「はい!!こんな風に立ってお洋服をたたんでるのを店員さんがやってるのを見て、自分が買い物に行った時カッコイイなぁ〜って思ってたんです。」私はハッとしました。
 (私達、そんな風に見られてたんだ!!知らなかった!!)
 きっとおたたみを教わって、いつも見ていたお洋服屋さんの店員さんになれた様な、そんな気がして嬉しかったのでしょう。
 三日目は、実際にサッカーに入り、お買上げのお客様に商品をお渡しする事と、トルソーのコーディネートを勉強しました。
 レジでは何度もお客様に、
 「あら、中学生?かわいいわねぇ、頑張ってね。」と言われ、嬉しそうに頬を赤らめていました。時には私達スタッフにも、
 「こういうのに協力するって、とっても良い事ね、子供は地域全体で育てるんですから・・・すばらしい。」と言ってお帰りになったお客様もいらっしゃいました。私はその時、やってよかったと、とても心があったかくなった気がしました。
 最後に、二人がコーディネートしたトルソーと記念撮影をして、職場体験は無事、終了しました。
 「正直、最初は面倒くさいとか思ってましたけど、楽しかったし、なんかこっちが逆に考えさせられた三日間でしたね。この仕事の楽しさ、物事に一生懸命取り組む気持ち、それにたった三日間しか一緒に居なかったけど、もう明日からあの二人が来ないと思うと、ちょっと淋しいですね。」一人のスタッフが言いましたが、皆、同じ気持ちでした。
 その時です、
 「あのぉ・・・これ、買っていきます。」
 「私も、これ、買います。」中学生二人が洋服を買ってくれると言うのです。一人は1900円のスカート、もう一人は2100円のバッグです。どちらも、それぞれ自分のトルソーにコーディネートに使った商品でした。
 私は思わず、
 「先生に買い物していいって言われてるの?」と聞きました。二人はにこにこしながらうなずいて、一人がバッグの中からお財布を取り出しました。小さな可愛いクマの形のお財布から、四つ折りになった千円札一枚と、小銭をジャラッと広げて、  「七、八、九百・・・よし!足りる!!」そう言って、千円札と小銭で作った1900円を差し出しました。もうクマのお財布の中には、ほとんど五円玉と一円玉しか残っていません。
 「そんなに使っちゃって大丈夫!?帰りはなにで帰るの!?」私があわてて聞くと、
 「お母さんが迎えに来ます。」とあっさり答えました。”お母さん”という言葉を聞いて、私はおそるおそる、
 「一ヶ月のお小遣い、いくらもらえるの?」と聞くと、
 「月に1000円。」
 なにか熱いものが私の胸にこみ上げてきました。
 「このスカート買っちゃったらお小遣い二ヶ月分が無くなっちゃうんだよ!?」
とっさに出た私の精一杯の言葉でした。
 「いいんです。欲しいんだもん!!ください。」女の子はとてもキラキラした笑顔で言いました。
 「○○ちゃんは?お小遣い大丈夫なの?」もう一人の女の子に私がたずねると、
 「今日は特別にお母さんがお金をくれたんです。いつもはお小遣いは無いんだけど。」
 二人はお財布が空になったのにもかかわらず、とても満足気な表情で帰っていきました。
 後日、二人が自分のトルソーと撮った写真と手紙、それと今後の授業の参考になればと思い、三日間の体験スケジュールを細かく紙に記入し二人の通う学校に送り、その後学校からはお礼の手紙、教育委員会から感謝状が届きました。
 
 
 私がこの体験を通じて感じた事は二つあります。
 一つは、仕事をする楽しさを大人が教える場が無ければ、子供は学ぶ事が出来ないという事です。
 「今の若い子は仕事が続かない、すぐ辞める。」「ニートが増え続けている。」と騒ぐなら、もっと、それ以上に、その子供達に対し、自分たち大人が、”仕事の楽しさを教えようとしているのか”という事です。私も現に、この体験学習を”面倒くさいから”という理由だけで断ろうとしていたのが現実です。でも、私達大人が年を取って、一人じゃ何も出来なくなった時、誰が支えてくれるのか・・・そう考えた時、この中学生や、ニートと呼ばれている世代、もしくはそれより下の子供達しか居ないのではないでしょうか・・・。
 ”根性がない、仕事が続かない、ニート”が増え続けているのは、私達大人の責任なのかもしれません。
 二つ目は、私達の婦人服を売る仕事というものは、本当に奥が深いという事です。あの時の中学生二人の目を見て思いました。財布が空になっても嬉しそうに帰っていく姿・・・みんな最初はそうだったのではないでしょうか。あれこそ女性のおしゃれ心の原点だと思いました。私達女性は、服と一緒に”ときめき”を買うのです。それは、いくつになっても変わらない気持ちです。きっともう一人の女の子の、”いつもはお小遣いをくれないお母さん”も、娘が洋服屋さんに職場体験に行くと聞いて、きっと欲しい物が出てくるだろう、そう思い、お金をくれたのです。それは自分が女性であるからこそ、お洋服にときめく、女の子の気持ちが分かるから、そしてその気持ちは特別な気持ちだと知っているから、だからその日は特別にお金をくれたのではないでしょうか。
 
 私達は社会人として、一人の大人として、楽しく仕事をする事、仕事の楽しさを未来の子供達に伝えていかなければならないという事、また、私達の仕事は、商品を通してお客様にときめきを売る、特別な仕事なんだという事、この二つをたった二人の女の子から教えられたのです。


2007 あったか・えっせい 入賞作品「一枚の葉書」ベルブードワァ浜松店 宮崎てるみ

 今のお店に異動して八ヵ月が経ちます。以前いたお店は大きな店で、ブランドの中でも中核になるお店でした。私はそこで店長でしたが、期待される成果を出す事が出来ませんでした。
今となっては異動して良かったと思う事ばかりですが、その時は小さな規模のお店に移される事がショックでした。自分の能力の無さを知られると思うと恥ずかしく、ほとんどのお客様には異動を知らせずに異動してきてしまいました。本当に薄情で恩知らずだったと思いますが、生活が落ちついたら少しずつ手紙でお知らせしようなどと思っていました。
異動して一ヵ月位経った頃です。お店に、私宛の葉書が一枚届きました。それは前にいたお店で、よくお相手をさせて頂いたお客様からでした。その方は、鈴屋のホームページをチェックしている時に私の名前が違う店舗の店長欄に載っている事に気付き、私が遠くに異動した事を知ったのでした。
葉書にはこんな事が書かれていました。
私が遠くに異動した事を知って、いてもたってもいられずペンを取った事。私のコーディネートするお洋服が本当に自分に合っていて、とても気に入っている事。それを選んでくれた私にもとても感謝している事。そんな私なら、新しいお店でもきっと沢山のファンが出来ると思う、ずっと応援しているという事…。文面から伝わる温かさに感動を抑えられず、涙を堪える事が出来ませんでした。
実家から遠く離れた土地での独り暮らし、何もかも一からやり直すつもりで、自分を見つめ直すつもりで異動の話を受けました。けれど、その反面心の中は不安で一杯でギリギリの状態。前のお店では何をやってもうまくいかなくて、自分に自信を無くしていました。新しい店でも、一体自分に何が出来るのか不安は拭えずにいました。
そんな時にもらった一枚の葉書。
「私の接客で、こんなに喜んでくれた人がいたんだ!」
改めて実感すると、それが素直に嬉しくて嬉しくて何度も葉書を読み返しました。そして気持ちを込めてその方にお礼のお手紙を書きました。書きながら、色んな気持ちが交錯して、ワンワン泣きました。
この事があって、私は気持ちがクリアになりました。活躍する場がどこであっても、自分の心さえしっかりしていれば関係ない事に気付きました。
「このお店でも、お客様にこんな風に喜んでもらえる販売員であろう。そんなお店を作ってゆこう。」
一人の販売員として、本当に初心に還る事が出来たと思います。
この時葉書を下さったお客様とは、今ではメールをやりとりしたり、プライベートでお付き合いが続いています。
私自身、人間としても店長としてもまだまだ未熟で、これから成すべき事は沢山あると思います。けれど、これからどんなにベテランになっても、いつまでも忘れずにいたいと思います。人を喜ばす事ができる喜びがある、この仕事の素晴らしい事を。

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