2003あったか・えっせい「ふれあい舞台」〜「ありがとう」が私の元気 「一期一会」(入賞作品)
ベルブードワァ 自由が丘店 藪下 陽子
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それは、私が入社して2ヶ月が過ぎようとしていた頃、親子でご来店されたお客様との素敵な出会いでした。

 その頃の私は自分の接客に大変悩んでいました。

『私はこれでいいのだろうか。お客様の満足も大切だが、売上げも大事。売上げをあげることのできない私は本当に販売員としてやっていってもよいのだろうか。』と心の中で何度も何度も問いかけていました。

 その日もいつもと同じように入店し、仕事をしていると、私と同じくらいの年齢の娘さんと、そのお母様の親子に突然、「これ下さい。」と声を掛けられました。娘さんは手にニットを持っていらっしゃいました。もうお買い上げがお決まりだったにもかかわらず私は、「ご試着なさってみて下さい。」と一言声をお掛けしました。

 するとお二人は顔を見合わせ、娘さんが「じゃあ、お願いします。」と少し面倒くさそうにおっしゃいました。私は娘さんをご試着室にご案内し、しばらくして娘さんが少し悲しそうなお顔で出ていらっしゃいました。

そしてお母様が一言、「これはサイズが合ってない。」その一言を聞いて娘さんはすぐに試着室に戻っていかれました。

 試着を終えた娘さんが私に一言、「ありがとうございました。」とおっしゃいながら、ニットとフェイスカバーを手渡して下さいました。
  「あなたの一言がなければ、きっと後悔していました。着てみてよかったです。」

その言葉に続いてお母様が「買うと決めてたのに、試着をすすめて買うのをやめられちゃうかもしれないのに、なぜ試着をすすめたの。言わなきゃ良かったのに。」とおしゃったので、私は、

 「私が試着をしないで買って失敗をすることがよくあったので、お客様には後悔していただきたくないからです。」

 とお答えすると、お二人は笑顔で店内をご覧になっていかれました。お二人は店を出られる帰り際に私と目が合うと『にこっ』と笑顔で何度も軽く会釈をして下さいました。

お礼を言わなければならないのは私の方でした。なぜなら私がそれまで悩んでいたことの答えを教えてくださったのはお二人だったからです。

 お二人の笑顔を見て『これだ!』、お客様の立場に立って接客をしていけばいいのだと気づき、心の中のもやもやが、す〜っと晴れていくのがわかりました。

 私はあわてて帰っていかれるお客様の後ろ姿に『ありがとうございます』の意味を込めて一礼をしました。

そのお二人のおかげで、それ以来私は今までの自分の接客スタイルでいいのだと思い、悩まなくなりました。私は幸せな出会いをしたと思います。