2006あったか・えっせい 「販売という仕事の喜びと意味」
ベルブードワァ 自由が丘店 元田 有紀
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「この前買ったばかりのジャケットが色落ちしてTシャツに色が付いて、出張先で恥をかいたじゃない!!その時の店員は色落ちするなんて一言も言ってくれなかった。」
お客様からのクレームのお電話でした。私もよく出張に行くので、お客様の気持ちに共感出来、本当に申し訳なかったという思いでお話を最後までお聞きし、出張先で購入されたTシャツの代金と色落ちしたジャケットの返品を申し出ましたが、お客様はその申し出を受け入れてくださいませんでした。私が(どうしよう…)と言葉を失っていると受話器から

「実はこのジャケットとても気に入っていて返品したくないんです。でもあなたの対応がとても良くて怒りが消えました。前はよくお店に伺っていたけれど、担当してくれていた店員さんが退職されてなかなか立ち寄れなくなって。どこのお店に行ってもやっぱり自分に合う服が見つからなくて、先日伺ったんです。好きなお店だからこそ色落ちする商品を扱っているのは残念だし、他の方が自分と同じ気持ちになってあなたのお店を嫌いになるのがどうしても嫌だったから勇気を出して電話させてもらったんです。」
胸が熱くなりました。そして今まで味わったことのない感情に、声が震えました。
続けて、
「このジャケットの新品と交換してください。色違いで全色あれば頂きます。その時、一緒に買ったTシャツも色違いで欲しいです。」
思いもよらない言葉にビックリしました。そして本当に嬉しく思いました。私どもの商品を本当に好きで信頼してくださっているお客様の気持ちを裏切らない為に、メーカーとお店で色落ち商品の原因と取り扱い方法について確認しました。

お客様の自宅が郊外で、お店にすぐ行けないと聞き、こちらから伺う事にしました。地図を握りしめ電車を乗り継ぎ自宅へ伺いました。お客様から道順を説明していただきましたが、内容が車の道順で、まさか電車で来るとは思っていなかった様で。
大変驚かれていて
「是非中に入って休んでください」
と声をかけて下さいましたが、自店の商品で御迷惑をおかけしたので玄関で充分ですと話し、ジャケットについて謝罪し、色落ちしてしまったジャケットとT シャツを見せて頂き、より深く頭を下げ、謝りました。
お客様が思っていたよりも私が若く、自宅にまで来てくれた事に感激され、
「はじめは怒るつもりで電話したのに、最後まで話を聞いてくれてありがとう。自分のわがままで、家まで商品を持って来てくれたり、嫌な顔一つせず礼儀よく対応してくださって本当に感動しました。会社の教育がいきとどいているのがあなたを見れば分かります。とてもすばらしい会社にお勤めされているんですね。」
心の中で(私が今まで教わった事はこういう事か!!無駄な事は一つもなかったんだ)その時、気づかされました。その後、玄関でのやりとりは一時間続き、持参したジャケットを交換し、他五点はその場で購入して下さいました。玄関を出る間際で深く一礼し、
「ジャケットの色落ちの原因をしっかりと調べた上で、お手紙を送らせて頂きます。」

「ありがとう。」

お客様が外まで見送りに出て来て下さり、私が見えなくなるまで手を振って下さいました。
 帰り道、自分の仕事のやりがいと、このお店で働く事が出来て幸せ者だな、と足取り軽く自分のほほがゆるんでいるのが分かりました。

 後日、手紙を書きながら涙が出ました。思い返せば返すほど、電話や御自宅で言って下さった沢山の温かい言葉が、私の力となり笑顔につながっています。いろいろなブランドが競合する中、自店を選んでご来店、ご愛用して下さるお客様に支えられていると再度痛感しました。そして何よりもお客様から販売という仕事の喜びと意味を教えられました。