2004あったか・えっせい「ふれあいステージ」 「心からの“ありがとう”」(入賞作品)
ベルブードワァ 自由が丘店 添野 幸子
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私が販売の仕事を始めて2年が経とうという時、小さな壁にぶつかっていました。1年目はわからない事だらけで仕事を覚えるのに精一杯でしたが、2年目になり一通り仕事も出来るようになり数字もとれるようになっていました。そして私が、入社後からずっと課題としていたのが、顧客づくりです。メンバーズカードのお勧めや販売カルテ、サンクスDMを出したりと、地道に行っていき、その頃にはどうにか顔と名前の分かるお客様が何人かできてきました。しかし、その時の私の気持ちといえば、毎回毎回、同じことの繰り返しで自分がやっていることが、本当に実になっているのか確信が持てずにいました。

そのような悶々とした気持ちを店長に相談したところ、今度は違った角度からアプローチしてみたらどうだ、とアドバイスをもらいました。そこで、自分の名前を覚えてもらおうと思い、手作り名刺を作り配ることにしました。

名刺を配り始めて2ヶ月。成果が顕著に現れないがゆえ、またもや私に不安が襲ってきました。名刺を配っているがはたして効果はあるのだろうか、もしかして無駄なことなのではないか、、、と。

そのような中、私は1人のおばあさんと出会いました。

ある日、夕食の買い物をすませ、両手いっぱいに荷物を持ったおばあさんが、店内につかつかと入ってきました。どうやら飾ってあったブラウスが目に止まったようでした。私は、

「素敵な柄のブラウスですよね。」

と、お声をかけました。おばあさんは、

「とっても素敵ね。うちのお嫁さんにどうかなと思ってね。」

と、にこっと微笑みました。私もそんなおばあさんの優しい心づかいに嬉しくなり、お嫁さんに似合いそうなコーディネートを一緒に考え、提案してさしあげました。おばあさんは、うれしそうに、

「絶対お嫁さんに着てほしいわ。」

と、おっしゃってくれました。しかし、サイズや好みが本人に合うか心配なので、今度お嫁さんが遊びに来た時に、連れてくるということになりました。いつ来られるかは分からないから、お取り置きしなくても良いとのことでした。そこで私は、自作の名刺の裏にコーディネートしたアイテムの品番と値段を書き、おばあさんに渡しました。もし、いらした時に自分がいなくても、すぐ商品を探すことができるからです。

「もし、お嫁さんが遊びにいらして、気になりましたら、添野までご連絡下さい。お品物揃えてお待ちしておりますので。」

おばあさんは、深々とおじぎをして帰っていきました。

そのようなやりとりがあったことを、すっかり忘れていた頃、休みあけに店に出勤すると、同僚が、

「昨日、添野さんあてにお客様いらっしゃったよ。」

と、言いました。あのおばあさんでした。お嫁さんと息子さんをつれて来店してくれたのです。来店前にお店にお電話をしていただいた為、他のスタッフもスムーズにお品物を揃えておくことができました。私とおばあさんが選んだブラウスとスカートは、お嫁さんにぴったり!とてもよく似合っていて、息子さんもとても喜んでくれたそうです。その事を聞き、とても嬉しく思いました。正直、名刺を渡したことも忘れかけていましたし、きっと来ないだろうなと、半分あきらめていたからです。それがどうでしょう、おばあさんは私を頼ってお電話までしてくれ、約束通り、お嫁さんと一緒に来てくれたのです。もちろん、私のコーディネートした服をお嫁さんがとても気に入ってくれた事もこの上なく嬉しかったのですが、おばあさんが私を訪ねて来てくれたことがこの上なく嬉しかったのです。自分のしてきた事に不安でいっぱいだった私は、おばあさんが必ず来てくれる、とは思えなかったのです。そこに気付かされました。お客様に精一杯のおもてなしをすれば、必ず伝わっているということに。そして、対応したスタッフが思いがけないことを言いました。

「あのおばあさん、添野さんに本当に親切にしてもらって、感謝してますって、何度も何度も言ってたよ。
ありがとうって何度も!聞いてて私も、感激しちゃった。」

と。それを聞き、私は思わず涙があふれ出しました。あのおばあさんに、そこまで喜んでいただけるなんて思ってもみなかったのです。

初めて人のお役に立てた、喜んでもらえたと実感できた瞬間でした。おばあさんの「ありがとう」「ありがとう」と何度も言う姿が思い描かれ、胸を打たれました。その言葉で今まで自分が地道に努力してきたこと、全てが無駄ではなかった、私のしてきたことは、きちんとお客様に伝わっているんだという自信に変わりました。

この出来事をきっかけに、私の中にあった不安な思い、悶々とした思いは、きれいにぬぐわれ、お客様のお役に立ち、喜んでいただく喜びこそ、私の選んだ仕事の醍醐味であると実感できるようになりました。

おばあさんの「ありがとう」の一言に救われました。霧に包まれた私の心を、澄みきったものにしてくれました。私はそんなおばあさんに出会えたこと、心から感謝しています。

“ありがとう”

心に染みた一言でした。